新国立劇場オペラパレスで今シーズンのトスカの初日を拝見してきました。2000年以来もう6回目になる豪華絢爛たるアントネッロ・マダウ=ディアツ演出のプロダクションです。

マダウ=ディアツはスカラ座の主みたいな方で、演出とか制作の責任者的ポジションに何十年もずっといました。私の世代からすれば大阪フィルと朝比奈さんのような感じです。

事務方としてスカラを統括しつつ、ご自身でも演出するタイプで、当然ながら裏も表も芸術面も金銭面も観客の好みも、何もかにも知り尽くした方はこういう風にする、という典型でしょう。つい最近84歳の生涯を終えられましたから、スタッフにとっては追悼的公演にもなったわけです。

この新国トスカでは、特に第1幕のフィナーレの例のテ・デウムは普通でもいわゆる見せ所ですが、さすがにこの上ない様式美を見せて、有無を言わせません。

2つのメロディーだけで合唱とスカルピアが圧倒的な盛り上がりを築く原曲のスコアがそもそも大したものですが、それにこの演出と、定評あるここの合唱団の魅力が加わり印象的な名場面となっています。

それに対して今回の新しい楽しみはトスカを歌うソプラノのマリア・ホセ・シーリの登場です。意外に一大勢力の南米組ウルグアイ出身で、ヨーロッパではどんどんのしてきて、やれラトルだメータだと、あちこちでお声がかかり、しかも好評。
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その初登場は期待以上でしたね。全体をよく把握し、自分を振り回すだけでない視野と技術的余裕があり、トップ歌手の器をそこここで見せます。

この演出で何度かご覧になった方も、このソプラノを見るだけで「もう一度どうぞ」と言いたくなります。
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「今回だけではもったいない」と劇場側も思ったのかマリア・ホセ・シーリは来年4月の「アンドレア・シェニエ」にも再登場のようです。トスカとは全く違うテクニックをまた平然と見せてくれるのでしょう。

(写真は2枚とも
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場