20世紀の最後の頃に、北九州市響ホールができて、ヴァイオリニスト数住岸子(すずみ・きしこ)音楽監督のもと数年に渡って、年一度の音楽祭と年数回の自主事業が開催された。

それらにスタッフの末席でちょっと関わったのだが、全公演の中で私にとってのベストパフォーマンスは、大石哲史(おおいし・さとし)が歌った林光の「雨の音楽」だった。紙のようなものをパシャパシャと叩きながらの歌唱だったと思う。

その時の監督数住岸子もその隣でヴィオラを弾いていた白尾偕子(しらお・ともこ)も、直後に相次いで同じ肺がんで逝ってしまった。

しばらくたって大石哲史は肺ではないが甲状腺の同じ病気ときいた。こういうときにいつも思うことは「音楽なんてどうでもいいから、生きていてほしい」ということだ。

大分たって大石哲史はこんにゃく座の舞台で演出とかで見るようになった。本当に良かった。

さらにしばらく経ったら歌い始めた。これはもう望外で、仰ぎ見るしか無い。先日も林光作品の主役歌唱を拝聴した。
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そして今度は萩京子(はぎ・きょうこ)作品によるCD。頭を垂れるしか無い歌唱だ。作品も、大石の歌唱総体を捉えた小島幸雄の録音も素晴らしい。
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CDは全く売れなくなって、日本だけのコンサート時のサイングッズ的なものとなり、録音物としての役目は終えようとしている。

そういう時代に、これはもう天からの贈り物のような存在としか言いようが無い。